「会社分割はなんとなくわかるが、他のM&Aとの違いがいまいちわからない。」、「自社にとってどんなM&A手法を取ればいいのかわからない。」
上記のようにお悩みではありませんか。
本記事では、吸収合併の特徴や手続きを、実際の例を挙げてわかりやすく解説しています。
本記事を読めば、自社にとって適切なM&Aスキームが見つかることでしょう。
参考記事:識学総研より
https://souken.shikigaku.jp/11197/
吸収分割って何?
まずは、吸収合併をわかりやすく解説します。
吸収合併は一言でいえば、既にある既存の会社に事業を譲渡することです。
ただ、このように表現すると他のM&Aの手法との違いがわかりづらくなります。
そのため、以下でもう少し詳しく説明をします。
吸収分割についてわかりやすく解説
吸収分割は会社の事業の一部、あるいは全てを別の既存会社に譲渡することをいいます。
事業の譲渡の対価として受け取れるのは、主に株式ですが、現金の場合もあります。
ただし一般的には株式を対価として受け取ると考えておくのが良いでしょう。
このため、吸収分割を実施した後でも、事業分割をした会社はそのまま残ることになるのが特徴です。
合わせて、買い手としても事業の対価として株式を引き渡すので、キャッシュアウトが発生しないのが吸収分割の特徴といえます。
吸収分割は会社分割の1種
吸収分割は会社分割の1つの方法です。
会社分割とは、名前の通り会社を分割することを指します。
ただ、会社を分割するといっても、既存の会社に事業を譲渡する方法と、新しく会社を立ち上げてそこに事業を譲渡する方法の2種類があることが想像できるでしょう。
前者を「吸収分割」、後者を「新設分割」と呼んでいます。
この他にも、吸収分割と新設分割には細かい違いはありますが、イメージとしては新しい会社を立ち上げるのか、それとも小さな会社のままなのかが具体的な違いになります。
吸収分割と新設分割の違い
株主の性質が変わるのが大きな違いです。
吸収分割の場合は既にある会社に対して事業を承継し、対価として承継会社の株式を引き受けることになります。この際、承継会社は既に存在しているので、別の株主がいます。
このため、吸収分割の場合は、吸収分割のみで承継会社を100%の子会社とすることはできません。
一方で、新設分割の場合は、承継のために新しい法人を立ち上げるため、株式を全て承継会社が取得可能です。このため、承継会社を100%子会社とすることができます。
新設分割の場合は、その特性上、許認可を新規で取得する必要があるので、場合によっては時間がかかることがあります。
吸収分割と事業譲渡の違い
違いに事業を別会社に移転させる意味では、吸収分割と事業譲渡は似ています。
しかし、権利義務の承継については大きく異なります。
吸収分割は包括的な承継になるため、事業を譲渡する際に債権者、労働者などから個別で承認を得る必要がありません。
このため、債務者異議手続きの異議申し立ての期間を設けるれば良いのが吸収分割です。
対して事業譲渡の場合、個別承継になるので、譲渡しようとしている事業の関係者に個別で承認をとる必要があります。
このため、事業譲渡の方が吸収分割よりも時間やコストがかかってしまうと認識しておくようにしましょう。
他にも、労働契約承継法が適用されるか否かが変わってきますが、後ほど詳しく説明します。
吸収分割と吸収合併の違い
吸収分割と吸収合併の違いは、事業が吸収された後に分割された事業が残るかどうかです。
吸収合併の場合は、あくまでも合併を目的としていますので、事業を承継会社に引き渡した後、分割会社は消滅します。このため、いくつかに分裂してしまった事業を一つにまとめるのが吸収合併です。
これに対して、吸収分割では事業を分けることを目的としているので、事業を分割した会社はそのまま残ります。
これが吸収分割と吸収合併の違いです。
吸収分割はどんな時に利用するの?
吸収分割を利用するのは不採算事業の譲渡を検討する際、抜本的な会社の見直しにより、事業再編が行われるときです。
例えば、不採算事業を抱えており、その事業がなければ会社経営がうまくいとの結論が出ている際には吸収分割を利用できます。この際、相手先が大手であれば受け取った株式に処分性が出るため、メリットが広がります
他にも、ある事業のみの収益が大きくなったはいいものの、他の事業とのシナジーが見込めないと判断された場合は、シナジーが見込まれる別事業を持っている会社への譲渡を検討します。この際も吸収分割を利用できます。
吸収分割のメリット
まずは吸収分割のメリットを説明します。
吸収分割のメリットは以下の5点です。
①キャッシュアウトを防げる
買い手側からすると、キャッシュアウトがないのは大きなメリットといえます。一般的にM&Aで支払う対価は現金などが多いため、株式を対価として発行すればよい吸収分割は買い手にとっては好条件です。
買い手の業績が好調だったとしても、万が一に備て現預金は持っておきたい企業に対して、キャッシュアウトがある他のM&A手法は適切だとはいえません。
この点から、買い手にとっても敷居が低いのが吸収分割のメリットといえます。
②手続きがシンプル
手続きが比較的シンプルなのも吸収分割の特徴です。
事業譲渡などの手続きと違い、吸収分割は包括的に承継ができることが特徴です。個別の事業に対して確認事項が少なくなり、事務コストが下がるのはメリットといえます。
しかし、包括的に引き継ぐことにより、買い手としては簿外債務や必要のない資産を引き継ぐことになります。注意をして手続きを進めるようにしてください。
③従業員への個別同意が不要
従業員への個別同意が不要なのもメリットです。
M&Aの中には従業員に対して個別同意が必要になるケースもあります。例えば、事業譲渡では従業員への個別同意が必要になってきます。
個別同意が必要になると手間と時間がかかってしまうのがデメリットです。
しかし、吸収分割では個別同意が不要な分、異議申し立てをされる可能性があります。
特に、従業員の仕事内容が大きく変化する場合などは事前に説明をしておくことをお勧めします。
④倒産のリスク分散が可能
吸収分割をすることで、倒産のリスクを分散できるのはメリットです。例えば、会社が全て一つにまとまっている場合は、その企業の資金繰りが悪化し、払うべきものが払えなくなってしまえば会社は倒産してしまいます。
しかし、吸収分割により事業を分割することで万が一1つの会社が潰れてしまっても、その他の事業は継続できます。
このため、リスクヘッジとして事業分割がされる場合があることを認識しておきましょう。
⑤意思決定のスピードが上がる
会社がスリムになることで、事業を分割した会社の意思決定スピードが早くなるのはメリットです。
特に、事業が増えれば増えるほど関連者も増加するので、承認までのスピードが遅くなってしまうケースがあります。
例えば、ベンチャー気質の企業でスピードを強みとしている企業にとって、事業が増えてしまうことでスピード感がなくなってしまうのはデメリットですよね。
この面から、吸収分割で事業を分割することによって、意思決定のスピードが上がることがメリットになる会社もあります。
吸収分割のデメリット
ここからは吸収分割のデメリットを説明します。
吸収分割のデメリットは以下3つです。
①株価に変動が起こる可能性がある
事業を分割した側も、承継した側も株価の変動が起きる可能性があります。
分割した側は事業が減るわけなので、企業価値が落ちます。また、事業を承継した側も、新株を発行して分割会社に対価として支払うので、総発行株式数が増えます。
株価が変動してしまうと、会社を取り巻くステークホルダーに影響を与えることがあるので、株主への事前の説明が必要になります。
もちろん、非上場会社で社長がオーナーの企業の場合はその限りではありません。
②時間がかかる
吸収分割にはそれなりに時間がかかります。もちろん、M&Aの手法の中では比較的早く手続きが完了しますが、それでも一朝一夕に完了するわけではありません。
事前に準備と計画をし、その上で相手先を決める必要もあるのがM&Aです。
このため、吸収分割をするのであれば、なぜ吸収分割をするのか、本当に吸収分割でいいのかを再度考える必要がありそうです。
③全ての事業で許認可を承継できるわけではない
届け出によって許認可を承継できるのが吸収分割のメリットですが、全ての業種において許認可を継続できるわけではありません。
例えば、金貸し業や宅建業では吸収分割の届け出だけでは承継ができません。新たに、許認可を取得する必要があります。
各業種による許認可の取り扱いについては、法令によって個別に決められているケースが多いので、自社の事業が届け出だけで引継ぎできるものかは必ず確認をしておく必要があります。
吸収分割における従業員の扱い
経営者にとって気になるのは、長年連れ添ってくれた従業員たちが吸収分割によってどのような処遇を受けるかです。
ここからは、従業員にとって大切なポイントをわかりやすく解説します。
労働契約承継法とは
労働契約承継法とは、会社分割によって別会社へ転籍となる従業員と、承継会社には移らない従業員の両方が転籍後も転籍前と同様の雇用条件を保護する旨を定めた法律です。
ここでの労働者とは、例えばパートやアルバイトなどの雇用形態は問わない全ての労働者のことを示します。
労働契約承継法に違反してしまうと、従業員からのクレームが飛び出るだけではなく、M&A自体が白紙に戻ってしまう可能性があるので注意が必要です。
労働契約承継法のポイント
労働契約承継法でポイントとなるのは7条措置、5条協議、2条通知の3種類です。
7条措置とは、分割会社は労働者の理解を求めるように努めなければならないと明文化されているものです。このため、会社は、分割吸収について労働者の理解を得る必要があります。
次に、5条協議ですが7条措置と内容は似ています。5条協議では労働者と吸収分割を協議する場合、十分な説明を行い労働者の意見を募る必要があることを示しています。
最後に2条通知ですが、これは分割契約について書面による通知を出す必要あると定めたものです。
まとめると、従業員の理解を経た上で書面による通知を出す必要があるということになります。
違反した場合はどうなるのか?
特に注意すべきは5条協議と2条通知です。これらに違反してしまった場合は最悪吸収分割が無効になる可能性もあります。
また、従業員はこの他に、労働者の業務が大きく変わる可能性がある場合は異議申し立てを会社に対して行うことができます。
異議申し立てをすることで、同様の業務に関わることができるケースもあります。
経営者サイドは、こうした申し立てがこないように十分に従業員に対して説明を行う必要性があります。
吸収分割の手続き
吸収分割の手続きは以下の流れで進みます。
Step1:吸収分割を締結する
まずは吸収分割の基本合意書を締結するところから始まります。目的、スケジュール、対価、事業の内容を決め他ものを基本合意書に記載し、双方で締結する手続きが必要です。
内容確認後は取締役会設置会社の場合は、取締役会での承認が必要になります。
Step2:吸収分割を承認する
次に吸収分割の契約書などを参照し、問題がなければ株主総会の特別決議で承認を取る必要があります。この際、株主総会の召集通知を開催日の2週間前までに出す必要があります。
議決権をもつ株主が1/2以上出席し、出席した株主から2/3以上の賛同が得られれば株主総会は承認されたと見なされます。
※簡易会社分割、略式会社分割に該当している場合には株主総会の実施を省略可能です。
Step3:株主・債権者保護の手続き
まず、反対票を投じている株主に対しては、株式を買い取る旨をその株主に通知しなければなりません。
合わせて、債権者保護手続きの実施の必要があります。吸収分割は包括的なM&Aになるので、個別で債権者から同意を得る必要はありません。しかし、債権者は異議申し立ての権利があります。
このため、官報と個別催告で異議申し立ての期間があることを債権者に対して知らせる必要があります。
Step4:労働者の利益保護手続き
労働契約承継法の部分で説明した通り、労働者の利益保護手続きも必要になります。
労働者は転籍に対して拒否する権利を持っていないため、救済措置として労働者保護手続きが定められているのです。
Step5:分割後の手続き
効力発生が発生し、無事分割が完了すると、その後は一定の事項を記載した書類を作成、本店にて6ヶ月管理する必要があります。
また、登記の変更を効力発生日から2週間以内に行う必要があるので注意をするようにしましょう。
Step6:その他事務
その他にも上場企業であれば適時開示、業種によっては許認可の再取得が必要になることもありますので必ず確認をしておくようにしましょう。
吸収分割にかかる費用
吸収分割にかかる費用は登録免許税、官報への広告費、司法書士への報酬などが必要になります。
この中では司法書士など専門家などへの依頼費用が大きくなるので注意が必要です。
吸収分割の税務
吸収分割の税務のポイントは適格分割か否かになります。
ざっくりというと、適格分割の場合には譲渡した事業は簿価評価されますので、諸々税金がかかる可能性は小さいです。
しかし、非適格分割となった場合は、分割した事業が時価評価されてしまうため、譲渡に対して税金がかかってしまう可能性があります。
吸収分割の仕訳
吸収分割の仕訳はかなりややこしいです。
なぜなら、事業譲渡による報酬が株主に渡るのか、それとも事業を分割した会社に渡るのかによって仕訳も変わってくるからです。
一例として、会社型吸収分割の場合の仕訳は以下のようになります。
事業を譲渡する会社の仕訳は以下です。
分割する事業の負債 | 100 | 分割する事業資産 | 100 |
分離先企業の株式 | 20 | 譲渡損益 | 20 |
なお、譲渡損益は資産と負債を時価評価した場合に表れます。
このため、適格吸収分割では譲渡損益は表れません。
吸収分割の具体例(KDDI)(2020/5/14)
直近であった吸収分割の例としては、UQコミュニケーションズ株式会社の営むUQmobile事業をKDDIが吸収分割した例が挙げられます。
この際、UQコミュニケーションズ株式会社が分割会社となり、UQmobile事業をKDDIに承継しました。
KDDIの携帯事業とUQmobile事業が相互にシナジーを生むとの理由で、携帯事業をKDDIに集中させたのが吸収分割の理由です。
実際に、吸収分割はこのように利用されています。
参考: 連結子会社との会社分割 (簡易吸収分割) に関するお知らせ | KDDI
まとめ
本記事では、吸収合併の特徴や手続きを、実際の例を挙げてわかりやすく解説しました。
吸収分割はパッと見ると複雑に見えるかもしれませんが、実は中身は簡単ということがご理解いただけたのではないでしょうか。
M&Aにはさまざまな種類があるので、自社にあったM&Aの方法を選択することが大切です。
もし、経営者だけでの判断が難しく、外部でのサポートが必要になった場合には、当社も合わせてご活用いただければと思います。
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